大判例

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京都地方裁判所宮津支部 事件番号不詳 判決

主文

被告人を罰金五〇、〇〇〇円に処する。

未決こうりゆう日数の内一五日を金一五、〇〇〇円に折算して本刑に算入する。

被告人が罰金三五、〇〇〇円を完納することを得ないときは三五日間(金一、〇〇〇円を一日に換算した期間に相当する。)労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(事実)

被告人は、昭和二六年八月一七、八日ごろ、京都府与謝郡宮津町字鶴賀二一〇五番地の沢村秀夫方におかれている日本共産党丹後地区委員会の事務所に立寄つたさい、同府与謝地区警察署の司法巡査である岩井利一の言動をとりあげ、白紙(縦二尺五寸横四尺五寸位のもの)に、筆と墨で、「左の者は売国奴につき注意せよ」「与謝地区署岩井巡査」と二行に見出をつけ、「右の者は、日本の自由・平和・独立のために闘う共産党及進歩的人民に対し、特高的調査・威カクを行い、憲法の保証する言論・思想・結社の自由を不当に弾圧する者である。」「具体的事実として“講和条約が締結されたら、共産党員は絞首刑・家族は銃殺にする”との暴言をはいた。」うんぬんと記述し、同地区委員会の署名をいれた壁新聞三枚ができているのを見ると、かんじんの後半は、同巡査がたまたま数日前の夕方ごろ退庁してから同町字魚屋九三四番地にある浜茶屋という飲食店にゆき戸田晋外一名と酒を飲んだかえりに路を歩きながら誰にいうとなく独語したに過ぎなかつたのをとらえ、あたかも同巡査が職務に関し公言したかのごとく事実をまげ記述したものであつたのに、当時自らも共産党員として同巡査のひごろの仕事ぶりをにくんでいたおりからのこととて、それらが真実をつたえるものであるかどうかを確めないまま、同町字白柏一三三五番地先の板塀(太田仙之助の所有するもの)外同町内二ケ所にわけ、いずれも道路に面する場所をえらんで掲示し、公然と、同巡査の私行にわたることがらを摘示して名誉をきそんしたものである。

(証拠)(省略)

(罰条)

刑法第二三〇条第一項(罰金をえらぶ)罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項と刑法第二一条第一八条第一、四項と刑事訴訟法第一八一条第一項を適用する。

(昭和二八年七月二四日京都地方裁判所宮津支部)

附記

弁護人のがわでは、被告人の行為が判示のごとく岩井利一の名誉をきそんするものであるとしても、それは公務員の非行を論難しようとするものに過ぎなく、しかも真実そのとおりの非行のあることが証明せられるのであるから、無罪の裁判を受けるべきである(刑法第二三〇条の二第三項)と主張するのである。

しかし、被告人の行為が判示巡査の公務に関する非行を摘示したものでなく私行にわたることがらをばくろしたものであることは判示したとおりであるし、又それが真実のままを摘示していなく、かえつて真実とは異る趣旨の記述に置かえられているものであることも判示したとおりであるから、弁護人の主張は当を得ないものとしなければならないのである。(もとより、ここで、真実そのままを摘示しているとかいないとかいうのは、真実と摘示したものとが厘毛の相違もなしに符合することを要求しているのでないこともちろんで、どれくらいの差異がついたとき真実に符合しないといえるかは事の性質上それぞれの場合につき判定せられなければならないのであろうが、少くとも、判示の壁新聞に記述せられているように問題の言葉のかえられたときのもろもろの条件をけずりさつて言葉だけを残しこれに別個のものを結びつけるというような表現と調子をもつてした場合には言葉そのものにはいささかの変更も加えていなくても、なお、かような記述は真実を摘示したものとはいえないはずである。)被告人のがわでは、又、判示の行為はもともと公共の利害をおもんばかりもつぱら公益のためにしたもので、かつ全くいつわりのないものであることが証明せられるのであるから、やはり、無罪の裁判が下さるべきである(刑法第二三〇条の二第一項)と主張するもののようである。

だがしかし、被告人が判示のとおり摘示した壁新聞に記述せられていることがらは一応公共の利害に関するものであるかのように見られるけれども、それの記述の至当が被告人の属する共産党ないしこれと同調するものの利益のためになされたものであることは、領置の壁新聞二枚(検乙第一、二号)の内容を通読することにより、たやすく知ることができるから、公共の利害をうんぬんし得ないばかりでなく、真実の証明の得られないものであることは、前段に示したごとくであるがゆえに、被告人の主張も正しくないものとして斥けなければならないのである。

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